部品メーカー プロジェクト紹介原稿
A社のB工場で生産する製品は真空ポンプがメインで、液体ポンプの割合は低かった。しかし、経営的な柔軟性を高めるために、液体ポンプの分野を収益の柱に育てることは、上層部の悲願であった。液体ポンプの主力商品として「C製品」があった。両吸込機構を採用することでポンプ効率が高く、農業や水道、工場設備など幅広い用途で使用されてきた製品だ。官公庁への納品が中心だったが、近年ではそういった需要が少なくなり、業界全体でのシェアも低下していた。このC製品をコスト面でも性能面でも大きく上回る商品を生み出せば、B工場の未来は明るい。新商品開発を目的としたプロジェクトチームが発足したのは2011年のことだった。
プロジェクトには、新商品開発で中心的な役割を果たす技術部をはじめ、設計部、調達部、生産技術部などから、スペシャリストが招集された。若手社員を含んだメンバー構成は、チャレンジ精神が旺盛な人材を積極的に登用する社風が顕著に表れていた。メンバーたちは、通常業務と平行しながらプロジェクト業務を進め、月2・3回は一堂に会してミーティングを行った。ものづくり好きが集まるミーティングでは、時間が経つのも忘れて議論が展開されることもあったという。2012年春の時点で、プロジェクトは全体の20%ほど進んでいたが、マーケットの状況などを考慮し、新商品の販売計画が発表された。2012年秋に発売することが決まったのである。あと半年で発売までこぎ着けることができるのか。難しい課題だったが、これを機にプロジェクトメンバーはさらに結束力を強め、新商品の開発に取り組むくことになった。
プロジェクトが終盤にさしかかり、安全性を確認する社内のテストを技術部の若手社員が実施することになった。テストもあと数回で終了し、発売も間近と考えていたころ、彼が思いも寄らない落とし穴があった。1.5倍の圧力をかけて耐久性を調べるテストで、部品の結合部から水が漏れ出したのである。「計算では耐久性に問題はないはずなのに、なぜだ?」考えられる方法をすべて試しても、水を止める技術が見つからず、彼は途方にくれた。そんな状況を見かねた生産現場の担当者がアドバイスしてくれた。「点と点で水を止められないなら、点と線にすればどう?」この製品は、結合部に設置した密閉用部品により、水を止める構造になっていた。問題の箇所では、この部品の端がぴったり合うよう設計されたのにもかかわらず、水が漏れ出したのである。現場担当者の言葉を聞いた彼は、この部品の形状を変更し、接することのできる面積を広げた。もう一度試作したポンプでテストすると、見事に水漏れが止まったのである。
技術部の若手社員をはじめ、プロジェクトチームが一丸となって開発に取り組んだ成果が実り、無事発売にこぎ着けることができたのが「C製品」である。蓄積したノウハウと最新の解析技術により、高効率、高吸込性能を実現し、消費電力量の削減と、低水位まで安定した運転を可能にした。
また、構造解析を用いた最適設計により、振動・騒音の低減を図り、高い信頼性を実現。さらに、流体解析により、同一仕様において口径を1サイズダウンする小型化に成功した。A社◯◯工場の技術の結晶とも言えるDF-STシリーズは、業界地図を変える商品として期待が寄せられている。しかし、お客様をもっと満足させるには、商品性能をもっと高めなければならない。社員たちのチャレンジはまだ終わらない。
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